子馬の嫁入り
というわけで、去年の5月に生まれた子馬3兄妹。
もう、母さんが恋しくて鳴くこともないし、
体もだいぶ大きくなり、
3頭一緒に仲良く暮らしています。
でも、もちろんうちで乗馬クラブを作るわけではないし、
生まれた子馬たちは買い手を探さなくてはいけません。
そこで出すのが個人アノンス。
さすが個人主義の国だと思うのだけれど、
たいていの売買は個人対個人で行ってしまうのがフランス。
いわゆる個人で出す3行広告なるものを、
さまざまなところで見ることができます。
新聞の折込広告、雑誌やフリーペーパーの巻末ページ、
ブティックやパン屋さんの一角から電柱の柱まで。
今やインターネットでも大盛況で、
無料の個人アノンスのサイトがいろいろあります。
その内容や、それはもう多彩。
不動産や中古車を主に、アンティークやブロカントの家具や物、
犬や猫、馬などの動物、さらには恋人探しまで、
いろんなアノンスがぎっしり。
ネット上の無料アノンスは定期的に出しているFanFan。
でもこのご時勢ですからね~。
競走馬や競技用のすばらしい血筋を持つ馬たちは別として、
趣味の乗馬用としての馬なんて、なかなか売れない!
まあね、エコロジー対策として、
「乗用車の使用、所持は禁止。
移動手段には馬を使いましょう!」
なんて政策が発表されないかぎり、
馬がバカ売れすることはないでしょうねぇ。
とはいえ、季節は春。
人々が馬に乗って外へ出かけたくなる時期なわけですよ。
そこで、FanFanは少々広告費を出してでも、
地方紙の折込アノンスへ3行広告を載せることにしました。
地方紙が発売されると、すぐさま知人から連絡が入った。
「おい、最初のページに写真が載っているぞ!」
慌ててFanFanが近所のパン屋さんに地方紙を買いに行くと、
あはは、本当だ、アノンスの最初のページに、
馬に乗ったFanFanの写真が載っている!
この最初のページは編集部が選んだ写真が掲載されるのです。
キャプションには、
「リュッキー・リューク(ベルギーのカウボーイ漫画)のように乗馬はいかが」
なんて書いてある(笑)。
FanFanがリュッキー・リュークかどうかはかなり微妙だとしても、
中にある小さな写真と3行広告だけよりは、とりあえず目立つはず。
ちなみに売り出しているのは子馬だけでなく、
乗馬用に調教した馬もいるのです。
でも、実は少し前に広告を出した時にも、
生まれたばかりの子馬の写真が最初のページに掲載されたことがありました。
しかし、それで買い手が現れたかというと別問題。
うちに来る人々に自分の写真が載った最初のページを、
いい気になって見せるFanFan。
でもさ、それで売れなければ意味がないじゃない!
アノンスを出すと、電話がちらほら掛かってくることは掛かってくる。
でも、うちに馬を見に来るところまでは、なかなかいかない。
と、思っていたら、ようやく馬を見に来る人が現れたのです!
時は4月1日、復活祭の振り替えの祝日、ランディ・パック。
朝から目が覚めるほどの青空で、
そうよね、もう4月だもの、といった春らしい日。
馬を見に来ると約束をしたものの、
なんと言っても見も知らぬ人との電話でのやり取り。
本当に来るのかどうかは時間になってみないと分からない。
で、ちゃんと時間通りにやって来たのは、
なんと改造ワゴン車。
車体には炎のようなペインティングがされていて、
屋根の上にもなにやら装飾が施されており、
車の中にもさまざまな物がぶら下がっているのが見える(汗)。
いわゆる暴走族の改造車ってヤツですか?
降りて来たのは白髪のカップルで、
ムッシューの方はまあ普通な感じだけれど、
マダムの方は赤いスリムパンツにヒョウ柄の毛皮という出で立ち。
なんだか、すごい人たちがやって来た~!
と私が興味津々で家の中から観察していると、
FanFanは子馬を見せに牧草地に2人を連れて行く。
その後、子馬の父さんを見せたり、母さんを見せたり、
3人で車で移動した後、
家に入ってくる頃にはしっかり話が決まったらしい。
おぉ、子馬1頭、お買い上げ!!
彼らが選んだのは雌馬コメットさん。
3頭の中では一番小さく、
ちょっと目が離れているヒラメ顔のコメットさんは、
はっきり言って売れ残りそうなタイプでした。
それでも、小さな馬が欲しいとのことで選ばれたらしい。
ま、世の中には好みというものがありますから。
でも問題は、馬を連れて帰るための馬運車がないとのこと。
仕方がないので、FanFanが自分の馬運車に乗せて、
連れて行くことに。
「サーカスの中で暮らしているらしい!」
とFanFanから聞きかじった私も、もちろん同行することに。
うちから1時間ほどかけて到着した、
ノルマンディー地方にある彼らの家は、
残念ながらサーカスではなかったけれど、
彼らの車同様、やっぱり奇妙。
家に入る門の柵には、馬たちが躍り、
郵便ポストはミニチュアの馬つき馬車!
大喜びで出迎えてくれるのは、
やたらに巨大でやたらに人懐こいニューファンドランド犬。
さらにすごいのは家の中で
ありとあらゆる隙間にオブジェが飾られているという感じ。
一番多くのスペースを取っているのは、
彼らが働いていたサーカスのロゴが入ったミニチュアカー。
きちんとパッケージのまま壁に飾られているか、
ちゃんとショーケースの中に並べられている。
これってまさに“フランス版オタク”だよね~。
なんて言いつつ、
見た目的には奇妙なムッシュー&マダムだけれど、
人柄はおだやかでやさしい。
引退したけれど、その昔、サーカスで働いていた時は、
なんとナイフ投げの演目を担当していたとか。
もちろんマダムは頭にりんごを載せたり、タバコをくわえたり、
ナイフを受けるマドンナ役ね。
と言って、壁に向かってナイフ投げを披露してくれました。
サーカスにいた頃はもちろん、いろんな動物を暮らしていたけれど、
サーカスを離れて昔から好きだった馬を飼いたかったんだって。
なるほどね、だからいろんなところに馬のオブジェが飾ってあるわけだ。
そういえば、彼らの車の屋根の上についていた装飾も、
近くで見てみると“馬”だということが発覚!
とはいえ、自分で馬を飼うのは初めてという2人。
毎日、にんじんをどのくらいあげるとか、
干草は草が生えてきたらあげなくていい、
などなど、FanFanから馬の飼い方を教わっている。
実際に馬に乗ることはもうできないけれど、
一緒に暮らせるだけでいいのだとか。
日本でいわゆる“馬好き”といえば、
大概が“競馬好き”だったりするじゃない?
FanFanももちろん“馬好き”な人間の1人であるわけだけれど、
愛馬として馬を飼うフランスでは、
“犬好き”、“猫好き”と同じレベルで、
“馬好き”というのが存在するんだよね。
日本では馬に触れたこともなかった私としては、
かなりカルチャーショックなことでした。
もちろん、犬や猫のようにアパルトマンの中で、
簡単に飼うわけにはいかないわけだけど。
強烈なキャラの買い手のおかげで、
すっかり影が薄くなってしまった嫁入りのコメットさん。
先住の去勢していない雄のロバをとりあえず、道路に出し、
新しいお家となる小屋の中に無事に入場。
コメットさんはまだ小さいし、
去勢していないロバほど凶暴なものはいないから、
絶対一緒にしないように、そして早く去勢させること、
と何度も念を押す花嫁の父、FanFan。
まあともかく、
奇妙ながらもやさしいお宅に嫁げて、
よかった、よかった。
ちなみに、アノンスのFanFanの写真を見たムッシューは、
その写真を拡大コピーして手元に置き、
馬を飼う夢を膨らませていたらしい。
いやはや、
アノンスの最初のページに掲載される効力はあるのですねぇ。
by yokosakamaki
| 2013-04-20 23:21
| うちの馬物語