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ノルマンディーの風

薪ストーブの楽しみ

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            私の実家も薪ストーブのある家で、
            そのストーブの使いっぷりは惚れ惚れするほど。
            夕食時になるとストーブの上には、
            常勤しているやかんの他に鍋が4つほど並ぶ。

            今夜のおかずやお味噌汁を温めている鍋から、
            明日のおかずになるための一晩中煮られてしまう鍋、
            お燗をつけるための鍋だって、もちろんあります。
            その鍋と鍋との隙間では、
            父親がいそいそと酒のつまみとするべく、
            銀杏を焼いているのだから、
            これこそ、まさに無駄なし。

            家の中は心地よい暖かさと、
            さまざまな鍋から出る料理の匂いで充満している。
            今日のご飯は何だろう、と漂ってくる匂いからあれこれ想像しつつ、
            階下からの「ご飯だよ」と呼ぶ声を、
            私は今か今かとお腹を空かせて待っている。
            これが実家の夕食時の風景。    

            だからね、薪ストーブのある家に住んだのならば、
            絶対、ストーブの上でご飯を作ろうを決めていたのだ。

            とはいっても、うちは床暖房と併用しているから、
            一晩中ストーブを点けているわけではないし、
            さらに夕飯の内容もほぼフランスご飯のため、
            そんなにおかずを作る必要もない。
            さらにさらには、オーブンを使うことも多いし、
            キッチンから微妙に遠くにあるため、
            なんでもかんでもをストーブの上で作るというわけにもいかない。

            と思っていたら、ちょうどこの日、
            最近新しく習得したファール・ブルトン(Far breton)を作ってくれたFanFan。
            彼お得意のクラフティーとは、まあ似たようなものなのだけれど、
            とにかくこちらはプルーンが入るのが大きな違い。

            「レシピにドライプルーンを浸すって書いてあるけれど、どうするの?」
            と聞いてくる彼に、
            「カルヴァドスに浸したら旨いぞ~」と勧める私。
            原液では強すぎるし、大量に必要になってしまうから、と、
            水で薄めて使ったFanFan。

            そのプルーン風味の薄いカルヴァドス液が残っていたのです。
            そこに都合よく、家にあるのが鶏肉1羽と大根。
            そうだ!これを使ってノルマンディー風煮物を作ろう!

            いつもよりも少し早めに夕飯の準備を開始。
            鋳鉄鍋のココットで鶏肉を焼き、大根を加えて混ぜ合わせ、
            カルヴァドス液を注いでひと煮立ちさせたらストーブの上へ。


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            この私のお気に入りのココットは、
            4年ほど前にパリのヴァンヴの蚤の市で買ったもの。
            CAだか、ACだかイニシャルが入っているけれど、
            有名メーカーではないだろうな。
            すでに鍋はいい色になっていたけれど、
            私もしっかり使い込んでいます。

            ココットの蓋に縁がついているのは、
            ここに水を入れて火にかけるため。
            鍋の中で加熱された蒸気が、水の入った蓋にあたると冷やされて、
            再び鍋の中に戻るため、中の素材の乾燥を防げるのだとか。
            な~んて知ったかぶっていますが、
            水を入れて使ったことはありません。
            本当にそんなに味の差が出るのかなぁ???
            
            そのお隣に並ぶは新参者。
            去年の年末に大阪の道具屋筋で見つけて、
            そういえば長年欲しかったんだ、と突然思い出した南部鉄瓶。
            そして荷物持ちのFanFanが、
            はるばるノルマンディーに持って帰って来てくれたもの。

            うわさ通り、鉄瓶で沸かしたお湯はやさしく丸い口当たりに。
            ただ残念なのが、コーヒーには気にならないのだけれど、
            紅茶を淹れるには味がやさしすぎてしまうこと。
            でもなんといっても、フランスの硬水で淹れる日本茶が、
            まろやかでとってもおいしくなりました。
            これから日本茶の出番が猛烈に増えそうです。


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            それでも心配だったのが、この和風バリバリの鉄瓶が、
            果たしてフランスの家に馴染むかどうか。

            でも、こうしてフランスのココットと日本の南部鉄瓶の、
            ちぐはぐなコンビが薪ストーブの上に並んだ様子は、
            なかなかしっくりといっているよう!

            「あら、あなたも鋳鉄さん。私も鋳鉄さん」と、
            お互いの共通点を見つけたお見合いカップルのように、
            仲のいいコンビへの今後の発展が期待できそう!
            そして薪ストーブも、なんと鋳鉄さんではないですか!            

            といった、同素材ということもあるのだろうけれど、
            シンプルで実用的な“物の美”は、結局のところ、
            どこへ行っても、何と合わせても美しいということなのだろう。



            そんな美しき物たちを、時々眺めてはほくそ笑み、
            私は膝にいるパシャを撫でながら、ひたすら原稿を書いている。

            さっきから聞こえてくるのは、
            ココットのコトコト、鉄瓶のシュンシュン、
            ストーブの薪が時折パチッとはぜる音ばかり。
                        
            ちょうどココットをかけてから2時間が経つ頃。
            かすかに漂う、大根と鶏肉の甘い匂いに、
            お腹が悲鳴を上げ始めた!

            それではそろそろ、
            「ご飯だよ」とFanFanに声をかけ、
            うちも晩ご飯といたしましょうか。



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            結局3時間近く煮込んでいた、
            鶏肉と大根のノルマンディー風煮物。
            仕上げにゆでた青菜を加えて食卓へ。
            ほろりと崩れる鶏肉と、甘くとろける大根のおいしさはいわずもがな。
            その後、残った煮汁に、残った青菜を煮浸しにし、
            最後の一滴まで堪能しました。
            ただ煮ているだけでここまでおいしく仕上がる、
            あぁ、すばらしきフランスのココットよ。





                       
by yokosakamaki | 2012-02-17 06:09 | お気に入り