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ノルマンディーの風

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猫の不在

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            その頃、私は家で缶詰状態だったため、
            幸いにもその始まりに点を打つことができる。

            11月30日。
            プリュムが姿を消した日。

            実はその前々日にも、
            プリュムが帰ってこない日があった。
            だから、その前日の午前中に、
            みんなでプリュムを探しに行こうと決めた途端、
            姿を現し、ホッとしたところだったのだ。

            だから、その最後の日のことも、
            とてもよく覚えている。


            遅めの朝ごはんを食べたプリュムは家の中に入ってくると、
            いつも通り、私の仕事机の後ろにある、
            椅子の上に置かれたクッションに飛び乗って、
            夕方まで寝ていた。

            ふと、目を覚まし、
            仕事をしている私のところにやってきて膝の上に飛び乗ると、
            いつも通り、重低音でゴロゴロと喉を鳴らして、
            しばらく甘えていた。

            そしてふと、用事を思い出したかのように、
            膝から飛び降りて、そのまま外に出て行ったのだ。


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            パリに行っていたFanFanに、
            プリュムが帰ってこないことを電話で話すと、
            「ちょっと遠出しているんだろう。すぐ帰ってくるよ」とのこと。

            前々日の例があるように、
            いままでも1日くらい姿を見かけないことはあったし、
            私もそうかもしれない、と思う。
            それでも、帰ってくるのをじっと待ってもいられず、
            翌日から毎朝、プリュムを探しに牧草地に出かけた。

            雨続きだった11月も末になると、
            落とす水がすっかりなくなったようで、
            曇りがちながら、時折薄日が差すほどに回復。
            気温もあまり下がらず、心地よいほど穏やかな気候だった。

            でも、プリュムは帰ってこない。



            3日後、初めてうちの牧草地を出て、
            どこまでもついてくるパシャを連れて、
            外の世界にプリュムを探しに行った。

            でもあるのは、
            お屋敷のような大きな建物と、大きな農家が1軒。
            その周りを囲むのは、さらに延々と続く牧草地や畑、果樹園。

            こんなに何にもない場所で、
            いったいどこに行こうっていうんだろう。
            人間の私だって途方に暮れる。


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            FanFanは村唯一の商店であるパン屋さんに、
            探し猫の張り紙を持って行った。
            するとマダムが大の猫好きで(店の前に時々猫もいる)、
            親身になって相談に乗ってくれる。

            「探し猫のサイトもあるから、
            そこにもアノンスを出した方がいい」

            早速、サイトを見ると、
            フランス中の探し猫、見つけ猫がいるわ、いるわ。
            写真あり、なしとともに、猫の特徴から、
            いなくなった、または見つかった場所とともに明記されている。

            世の中の猫たちは、
            いったい何を求めて彷徨っているのだろう。


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            パシャの出戻りの一件から、
            私は「猫も自分の家を選ぶのだろう」と思っている。
            我が家で一番賢く、悪知恵の働くパシャが、
            わざとベッドにおしっこをしていたと白状しても、
            私はまったく驚かない。

            産まれた時から、うちの家から出たことのないプリュムが、
            外猫じゃなくて家猫になりたかったとか、
            近所の家の方がおいしいごはんをもらえるとか、
            家主不在に我慢がならないとか、
            うるさい弟妹のいない家がいいとか、
            いろいろと文句があったとしてもおかしくないのだ。

            外で暮らしている猫たちが自由であるならば、
            自分の家を選ぶのも自由だということ。


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            現に、パシャとの仲が悪くなっていたのも事実。
            何がきっかけでそうなったのか、私にはさっぱり分からないのだけれど、
            10月末ごろから外で唸り合う声が聞こえるように。
            時にはわめく声も聞こえることもあり、
            その度に私は外に走り出し、仲裁に入ったのだけれど、
            プリュムとパシャのにらみ合いは激しくなるばかり。

            温和なプリュムがまるで人間のような声を出して、
            唸っているのを見るのは本当にびっくりで、
            気の強いパシャが彼をそこまで怒らせたのか、とも思うけれど、
            猫には猫の事情があるのだろう。

            そして、たぶんパシャが外にいたため、
            身を低くして、そろりそろりと去って行った姿が、
            私が見た最後のプリュムだった。




            もし、私に後悔できることがあるとすれば、
            あの頃にみんなで散歩に行かなかったこと。
            そうしたら、すんなりと仲直りしたかもしれないのに。
            私は2匹のことを気にかけながらも、
            日々の生活に追われていた。

            仕事の合間に、家から一歩外へ出るだけなのに、
            私は唯一、自分が猫にできることを怠っていたのだ。


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            もちろん、プリュムがいなくなった理由は、
            他にも考えられる。

            FanFanを含め、周りの人々が言うのは、
            狩猟の時期で猟師に撃たれたのかもしれない、ということ。

            交通事故だって考えられないことはないけれど、
            こんな田舎で車にはねられるより確率が高いのではないか。
            猫がいると獲物に逃げられてしまうため、
            狙い撃ちをする猟師もいるといううわさながら、
            狩猟免許を持つ(!)パン屋のマダムは、
            「そんなことは禁止だし、罰金だ」と否定していた。

            狭いところにはまって出られなくなったのかもしれないし、
            心無い人に毒を盛られたり、罠にはめられたのかもしれないし、
            間違って車に乗って遠くに連れて行かれたのかもしれないし、
            うちから姿を消した45羽の鶏のように、
            もしかしたらキツネに食べられたのかもしれないし、
            それともそもそも、うちの敷地にブラックホールがあるのかもしれない。


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            心優しい人々は、
            「3ヵ月後や6ヵ月後に猫が帰ってきた話があるよ」と慰めてくれる。

            実は、プリュムがいなくなる前から、
            村上春樹の“ねじまき鳥クロニクル”を読んでいたのだけれど、
            その話はいなくなった猫を探しに行くところから始まる。
            その後、プリュムが本当にいなくなって、他人事ではなくなるのだけれど、
            話の中で猫が戻ってくる場面があり、
            小説とはいえ、何と勇気づけられたことか!

            そうだ、猫は1年経っても帰ってくるんだ!!!



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            村役場にも張り紙をお願いし、
            保健所にも連絡してメールで写真を送ったけれど、
            いまだにプリュムの消息は何もなし。

            迷い猫サイトにアノンスを載せてからは、
            この地域で迷い猫や見つけ猫が出ると、
            メールが送られてくるようになった。
            そして、毎日、地域以外の見つけ猫をチェックするのが日課になった。
            中には死んでいる猫を発見したアノンスもあって、
            私みたいに猫が帰ってくるのを待っている人がどれだけいるか、と思う。

            こういうサイトを見ると、
            世の中の猫たちは、
            どれだけ多くの猫を愛する人々に助けられているのだろう、
            とも思う。




            いくらでも悪いバージョンの“かもしれない”は考えられるけれど、
            考えたところでプリュムが帰ってこない限り、
            結局のところ、答えが出ることはない。

            作家、内田百閒はいなくなった猫のために、
            よくまあ、毎日泣いて暮らしたものよ。

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            それならば、良いバージョンを考えてみよう。

            たぶん、今頃、プリュムは猫好きの優しい人の家に入り込み、
            ごはんをたらふく食べ、ぬくぬくと暮らしているに違いない。
            愛嬌のある子だし、産まれた時から外猫だったんだもの、
            そう簡単に死ぬような奴じゃない。




            そして、もし、想像が未来を作るのならば、
            私は何度でもイメージするだろう。

            みんなで散歩に出かけると、
            草むらからひょっこりプリュムが顔を出すところを。



            そうして、私は今日も猫たちと散歩に出かける。
            プリュムを探しながら。



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by yokosakamaki | 2014-02-24 02:23 | うちの猫物語