ノルマンディーの風

カテゴリ:うちの山小屋( 3 )

野生ということ

d0223186_1736720.jpg

            ずいぶん間が空いてしまいましたが、
            うちの山小屋に現れた小さなお客さんの話の続きです。

            あれから小リス君が、
            毎週うちの山小屋を訪れる常連客になり、
            1ヶ月ばかりが過ぎた頃、
            はたまた小さな事件が起きたのです。

            山小屋のテラスの柵の上を伝い、
            私の目の前を窓越しに平然と通り過ぎていくようになった小リス君。
            ある日、ふとテラスの上で立ち止まったかと思うと、
            バーベキュー用にテラスに置いてあった延長コードを、
            なんと、かじり始めた!
            
            思いもかけない話の成り行きに、唖然として見つめていると、
            コードの外側のビニール部分を幅10センチほど、
            歯型をつけてギザギザにかじり、
            ふと、飽きたのかそのままどこかへ行ってしまった。

            その後、帰ってきたFanFanにその話をすると、
            案の定、嫌な顔をした。
            「そのうち電線や電話線までかじられたら、大変だ!」
            それで、私はなんだか友達のいたずらを告げ口したような気になり、
            さらに嫌な気分に。

            しばらくして、思い出したように笑いながら、FanFanが聞いてきた。
            「それで、リスがコードをかじるのを、何もせずに見ていたんだ?」
            「だって、リスが悪いわけではないんだよ。
            人間が他人の物を壊したり、飼い猫がいたずらするのとは違うんだよ。
            コードの1本ぐらい、リスにくれてやれ」
            と言ったらFanFanは笑っていた。

            そうなのだ。あの時、私は考えていたのだ。
            どうしてこうも野生動物との話は、ワンパターンな展開に陥るのか、と。
            山から民家に野生動物がやってきたと言っては、
            庭を荒らされた、作物を食べられたという顛末になる。
            不思議の国のアリスのお茶会のように、
            仲良くお茶でも、なんて話は絶対にあり得ない。
            
            でも、それもこれも、人間が勝手に境界線を引き、
            ここは人間の土地、これは人間の物と、
            野生動物には断りもなく、ルールを決めたのがいけないのだ。
            たとえばこれが森の中のことで、木の枝をかじったとしても、
            誰も文句は言わないだろう。

            コードをかじったくらいならかわいいものだけれど、
            場合によっては最悪の事態に発展することもある。

            数年前、私は前の彼のバイクの後ろに乗り、
            ブルゴーニュ地方の森の中を走っていた。
            それは月明かりのない真っ暗な冬の夜で、
            その時何を考えていたのか覚えていないけれど、
            ふと、バイクを運転する彼の様子がおかしいことに気がついた。

            途端、左足の外側に何かが当たった感触があった。
            まるで道の真ん中にポールでも立っていたとでもいうように。

            もしかして、この人、居眠りしていたわけじゃないでしょうね?
            釈然としないまま、後ろに乗っていると、
            森を抜けたところにあるカフェの駐車場でバイクを止める前彼。
            「いや~、あぶなかった」とバイクを点検する彼に、
            ちょっと腹を立てながら何があったのか聞くと、
            「見てなかったの?もう少しで鹿と衝突するところだったんだよ」だって!

            突然、ライトに照らし出された鹿を見て、びっくりした彼は、
            へたにハンドルを切るよりも、とりあえずそのまま直進した方がいいと判断。
            突然、ライトをつけて迫ってくるバイクを見て、びっくりした鹿は、
            そのまま道を渡るよりも、向きを変えて元来た方向に戻る方がいいと判断。

            両者の適切なる判断で、鹿は私たちの左足に軽く接触しただけで、
            事なきを得たのでした。
            今思い出しても、そんな一生に一度、あるかないかの出来事を、
            まったく見ていなかったなんて!
            どうにも悔やまれて仕方がないのですけれど。

            でも、そんなことを言っていられるのも、
            もちろん大事に至らなかったから。 

            田舎を通る高速道路や国道では、
            動物の死骸が道路に転がっているのが日常茶飯時のフランス。
            私は田舎道で車の前を逃げ惑う野ウサギを見ては、
            ピーターラビットの世界が本当にあるのだとつくづく思った。

            運悪く人間の土地に足を踏み入れてしまった動物も可哀想だけれど、
            さらに運悪く、事故にまで発展してしまったら人間だって大変だ。
            熊と人間が出会ってびっくり仰天、
            お互いに悲しい思いをするのもよくある話。

            そうだ、林の中で私が大声で宣伝しなくてはいけなかったのは、
            こうなのだ。
            「こっちに出てきてはいけませんよ!人間と出会うとろくなことはありません。
            林や森の奥奥に潜んで、末永く平和に暮らしてくださ~い!!」
            ということなのだ。
            寂しいけれど、それがお互いのためというもの。

            その“コードかみつき事件”から、一度姿を見せたきり、
            まったくやって来なくなった小リス君。
            お互いに本当に嫌な思いをする前に、
            こうなってやっぱりよかったのかも。
            リスが跳ねなくなり、静けさの戻った庭を眺めては、
            自分に言い聞かせた。

            そして、ほぼ半年後。

            朝、夕の冷え込みがぐっと感じられるようになった秋の終わり、
            山小屋の屋根の上を誰かが走り回る音がする。
            いつものように、山小屋に住む鳩のつがいが追いかけっこをしているのだろう、
            と頭の上の足音に耳を傾けていると、
            屋根から柱を伝わってひょっこり顔を出したのは、
            懐かしいあの小リス君!

            思わず、「あんたどこに行っていたのよ!」と話しかけながら、
            やっぱり再会できるのはうれしいものです。
            さて、これからどうなることやら、
            非常に不安ではありますが。

            今、フランスは狩猟の季節。
            山小屋の周りでも銃声の音が響いています。

d0223186_21132066.jpg


            
                        
            
            
            
            
[PR]
by yokosakamaki | 2011-10-31 21:33 | うちの山小屋

小さなお客さん

d0223186_23542899.jpg

            ご存知の方も多いと思いますが、
            パリをちょいと出ると広大な田園風景が広がるのがフランス。
            うちのパリ滞在用の山小屋もパリに近いだけで、
            ノルマンディーと同程度の田舎の風景の中にあります。

            小さな村の端っこに位置し、家の前も右隣も何もない草原、
            その向こうには軽く散歩するのにちょうどいい規模の林が続いている。
            前の道を通る車は1日に数台、
            散歩する家族が通る週末の方が通行量が多いという感じ。

            そんな長閑過ぎる風景に、
            春先、突然異変が起こった。

            ある日、山小屋に来てみると、
            うちからもっとも近い林の一部が、
            大規模に伐採されているのです。

            もしかしたら、うちの山小屋の前に、
            新しい家がバンバン建設されてしまうのかも。
            と、ちょっと暗い気分になっていたら、
            その異変と引き換えに思いがけないお客さんがやって来た。

            その小さなお客さんは、
            山小屋の庭をポンポンポーンとピンポン玉が跳ねるように突然現れ、
            スルスルスルーと木を上っていく。

            はて、今のはなんだったのか?
            山小屋の中から木の上をじっと凝視しても何も見つからない。

            そのうち、忘れた頃に、
            再びポンポンポーンと飛び跳ねる物体があり、
            窓にへばりついて観察していたら、
            ようやく分かった。

            リスだ!

            私が今まで見たことのない種類のリスで、
            色が濃いオレンジ色に、長い毛の持ち主。
            耳にも長い毛が生えていて何ともキュート!

            それが山小屋の周りをグルグル、グルグル走り回っている。
            不意に現れたかわいらしいお客さんに、
            すっかりうれしくなった私は、
            リスと一緒に山小屋の中をカメラを持って、
            グルグル、グルグル走り回った。

            小さな山小屋には3方に窓がついているので、
            リスに気配を感じさせることなく、
            存分に観察ができるのです。

            そのうち、屋根の上をパタパタパタと走り抜ける音がしたかと思ったら、
            テラスの柵をスルスル渡って、
            私の目の前を駆け抜けていく。
            傍を通る時に横目で家の中をチラリと覗いていったみたい。

            それから毎週、私が山小屋にいると、
            この小リス君が遊びに来るようになったのです。
            かなりやんちゃ坊主のようで、
            その行動は日が経つにつれ大胆に。

            屋根の上を通るのがいつもの合図なのだけれど、
            その音を聞きながら、来るぞ来るぞーとカメラを構えていると、
            必ず、テラスの柵の上に現れる。
            何度目かの時は、柵の上で奴は立ち止まり、
            じっくり山小屋の中を覗くまでに。

            そして私とレンズ越しにバッチリご対面。
            暗がりに潜む、カメラを構えた私は、
            なんと変な生き物に見えただろう。

            その後、私がテラスで本を読んでいても、
            平気で庭を飛び跳ねるようにまでなった。
            いいな、いいな、こんな関係。

            この近くには野生の動物が多く、
            鹿や野うさぎ、雉などもウロウロしているのをよく見かける。
            できればいろんな動物にうちの山小屋に遊びに来てもらいたい。
            「ここでは誰もあなたたちに危害を加えませんよ~」
            と林の中で、大声で宣伝して歩きたい!

            そしてみんながやって来たら、
            私は山小屋に潜んで、心ゆくまで野生動物の観察を続けるのだ。            
            動物たちに気づかれることなく、ひっそりと、
            ひとりニヤニヤしながら。

            というのが、今の私の偉大なる野望なのです。
            「野生動物が遊びに来る山小屋」
            って、すばらしく素敵な山小屋でしょ!


d0223186_1495797.jpg


            
            
[PR]
by yokosakamaki | 2011-04-27 02:02 | うちの山小屋

ストーブ用の薪作り

d0223186_22412724.jpg

                   私たちがパリにいるときは、
                   パリ郊外にある山小屋に泊まっている。
                   周りに山はないけれど、小さな木造の小屋で、
                   木に囲まれた敷地内にトレーラーと一緒にポツンと建っている、
                   一見するとかなり怪しい風貌の家。
  
                   小さいながらも内部の設備は充実しており、
                   かなり快適な暮らしながら、
                   いままでなかったものといえば電話線。
                   今後、頻繁にこの山小屋を使うことになるため、
                   インターネットを使えるよう、このたび電話線を引くことにした。

                   何事も自分たちでやるフランスのこと、
                   小屋まで電話線を引いてもらうためには、
                   敷地内の邪魔な木を切らなくてはいけない。

                   そこでFanFanがチェーンソーを使って邪魔な部分の枝を切り、
                   ついでに伸びすぎた部分の枝も切り揃え、
                   電話線を引くお兄ちゃんが来た時には準備万端。
                   無事に電話線が小屋まで届き、インターネットが使えるようになった。

                   めでたし、めでたし!

                   と、木こり仕事はそこでは終わらず、
                   切った木は無駄なく、
                   ストーブ用の薪に加工しなくてはならないのです。

                   そういえば先日、東日本大地震の数日後、
                   ノルマンディーの家でも停電があった。

                   その時、私はノートPCで写真の整理をしていて、
                   ふと、バッテリーマークが出ていることに気がつき、
                   電気が来てないことがわかった。
                   しばらくしたら直るだろうと思いながら、
                   PCのバッテリーを使い切ったけれど、まだ電気が来ない。

                   じわじわ外が暗くなってきたから、
                   慌ててストーブの中にあった灰をきれいにし、
                   薪ストーブに火を入れることにした。
                   火をつけてから、さて、と思っていると、
                   電力会社のお兄ちゃんが、
                   「故障のため、ここら辺一帯が停電です。1~2時間で直るでしょう」
                   と、家まで伝えに来た。

                   その時点で時刻は夏時間前の夜7時。
                   すでに家の中は暗闇が内側からじわじわと支配しつつあった。
                   いつもならば夕飯の支度に取り掛かるところだけれど、
                   ライトを持ちながら料理するのもいやだし、と、
                   ぼんやりとストーブの火を眺めていた。
                   その頃には家の中でもっとも明るい場所は、
                   ストーブの前しかなかったのだ。

                   地震があるわけでもないし、
                   もちろん数時間の停電だということはわかっているのだけれど、
                   慣れていない暗闇というのはそれだけで不安が募る。
                   ストーブの前から動くこともできず、まさに成す術もなく、
                   FanFanが帰ってくるのを、ゆらゆら揺れる炎を見つめながら、
                   暗闇の中、ただひたすら待っていた。

                   結局、停電が直っていたのは翌朝のこと。
                   その夜はライトを片手に家の中を移動し、
                   ストーブの上で昨晩の残りの子羊のローストと瓶詰めの豆の水煮を一緒に温め、
                   ストーブの横でろうそくを灯して夕飯を食べた。
                   いつもとは違う夕食スタイルに、
                   「キャンプみたい」と気分は落ち着いたけれど、
                   それもみんな薪ストーブがあったから。
                   明かりと暖房、そして調理器具にもなる薪ストーブがあることに感謝したものだった。

                   今、山小屋の庭でストーブ用に切り揃えた薪を、
                   よいしょ、よいしょと集めていると、とてもよく分かる。
                   あの薪ストーブの温かさは、自然の恩恵なのだ。

                   でも、切った木を、
                   太い枝は切り揃えて薪用にまとめ、
                   細い枝は葉っぱと一緒に燃やす、
                   という一連の作業は決して楽ではない。
                   しかも、大変な思いをして集めた薪は、
                   あっという間に燃えてしまうもの。

                   もちろん、都会暮らしでは難しい方法だけれど、
                   電気がない、ガスがない、石油がない、
                   と上からの通達でお手上げになるよりは、
                   自分でできる手段というものがあったほうがいい。
                   そんな時に助けてくれるのは、身近にある自然なのではないかと思う。
                   私たちの遠い祖先が自然から知恵を得、
                   火の使用によって暗闇を明るくしたように。

                   でも最悪の時に、自然さえもなくなっていたらと思うと、ぞっとする。
                   極端な話だけれど、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のアメリカ映画、
                   「トータル・リコール」で支配者に酸素の供給をコントロールされた火星が出てくる。
                   もしかしたら、本当に酸素までも供給される時代がやってくることがあるかもしれない。
                   そうなったら、私たちは息をする自由さえもなくなってしまうということだろう。

                   ということを考えながら、
                   せっせとストーブ用の薪集めに励む。
                   今はまだ、身近に助けてくれる自然があるということを、
                   言い聞かせながら。
                   
                   
d0223186_2243966.jpg

[PR]
by yokosakamaki | 2011-03-30 01:21 | うちの山小屋