ノルマンディーの風

プリュム、その後

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       プリュムがいなくなってから、
       フランス中の迷い猫、見つけ猫が掲載されるサイトを見るのが習慣になった私。

       去年の春先、そのサイト上でふと、プリュムに似ている猫を見つけた。
       とは言っても、掲載されている写真は、
       俯瞰から撮ったもので猫の背中しか見えない。

       しかし、この背中がどうにもプリュムのような気がしてならない。
       手元にあるプリュムの背中の写真と何度見比べても、
       黒とグレーの色の割合、縞の太さ、模様の描かれ方など、
       どれを取ってもよく似ている。

       絶対にプリュムだ。

       サイトを見るのが習慣になっているとはいえ、
       毎日、フランス全土で見つけられる迷い猫の多さに、
       正直言って、実際にプリュムが見つかるとは思っていなかった。

       まさか、本当にプリュムが見つかるなんて!!

       喜びで興奮しながら、この写真の掲載者に電話を掛けてみると、

       「で、あなたの猫はどこでいなくなったの?」
       「ノルマンディーです」
       「そんな遠くからうちまで来るはずがないじゃない!」

       と、ずいぶんつっけんどんな言い方。
 
       掲載者はアキテーヌ地方に住んでいて、
       もちろん猫が独りで歩いて行ったとは思いもしないけれど、
       間違えてトラックに乗って連れて行かれてしまったという可能性があるじゃない。

       こんなにも写真の猫が似ているのに、
       “遠いから”という理由で、プリュムじゃないと却下されるとは!
       唯一の手がかりがなくなってしまうかも、と焦る私は、
       とにかくその猫の他の写真を見せて欲しいと必死で訴える。

       「で、あなたの猫はいくつ? 去勢はしているの?」
       「しています。3歳くらいなんですけど」
       「じゃ、違うわね。去勢はしていないし、まだ小さな子猫よ」

       と、あっけなく、頼みの綱をざっくりと切られたのでした。

       猫の顔の写真だったら一目瞭然なのに、背中の写真に騙された。
       というか、どうせ載せるなら猫の顔写真にしてくれ。
       
       その後はサイト上でも、そこまでプリュムに似ている写真は見つからず。
       相変わらず、何の手がかりもないまま、月日が流れ。。。

       と、その初夏、いきなりの急進展があったのです。


       事の始まりは、同じ村に住む叔母さんから聞いてきたという知人の話。

       うちから500mくらい離れたところに住んでいる彼女の叔母さん曰く、
       「他所の猫をさらって来て、家の中に閉じ込める頭のおかしい男が近所にいる」
       とのこと!!!!

       FanFanもその“頭のおかしい男”のことは知っていて、
       その男は50歳代で、いままで一度も仕事に就いたことはなく、
       両親の家で親と一緒に暮らしていたのだけれど、
       今や両親は亡くなり、相変わらず何もせずに一人で暮らしているとか。

       さらにその叔母さん曰く、
       「一人で暮らしていて寂しいから、猫を捕まえては家の中に閉じ込める」
       なのだとか!

       ひとつの村に一人はつきものの、名物変人というわけか。

       早速、FanFanがその叔母さんに話を聞きに行ってみると、
       「猫を飼っているはずはないのに、
       その男の家のカーテンが猫にひっかかれたように破けている」だの、
       「隣の猫にエサをやって手なずけている」とかいろんな話が出て来る。

       さらに、
       「村のパン屋のマダムはその男から自分の猫を取り戻したことがある」
       なんて話まで出て来た!

       パン屋のマダムと言えば、
       プリュムがいなくなった時に迷い猫のサイトを教えてもらったし、
       店内にはいまだにプリュムの迷い猫のチラシを貼っていてくれて、
       猫好きなのは私たちも承知。

       でも、いままで猫を取り返した話は聞いたこともなかった。

       早速、FanFanがパン屋のマダムに話を聞きに行くと、
       猫を取り返した話はしなかったけれど、
       「そういえば、“頭のおかしい男”がプリュムのチラシの前でじっと写真を見ていた」
       というさらなる情報を入手。

       これはもう、直談判に行くしかないでしょ!

       と、FanFanと2人で殴り込み話し合いに相手の家を訪れたのです。

              
       “頭のおかしい男”の家は、見たところ普通の2階建ての一軒家。
       両隣、後ろも他の家に挟まれ、道に面した敷地内の中央に家が建っている。
       表から見ると、1階部分は半地下に埋まっている感じで、
       右半分はシャッターつきのガレージ、左半分は高所に小さな窓しかついていない。
       テラスがついている2階部分が、居住スペースなのだろう。

       道側からは玄関は見えず、門にも呼び出しベルがなかったため、
       FanFanと私はずかずかと門を入って裏手に回り、
       家の裏側にある玄関の前に立った。

       玄関の前には猫用のエサ容器があり、
       うわさの隣の猫らしい、小さな猫がうろうろしている。
       
       “頭のおかしい男”が住む、“外から見えない半地下のある家”に、
       映画『羊たちの沈黙』のクラリスが犯人宅に踏み込むシーンが頭をよぎる。


       おもむろに、FanFanが呼び出しベルを押した。




       開口一番、
       「人の家に入り込んで何やっているんだ!」の怒鳴り声。

       玄関はガラス戸になっていて、
       外に出て来なくても“頭のおかしい男”の姿が見えるのだ。
       白髪交じりのぼさぼさの頭、Tシャツにスウェットパンツの長身の男。
       「ボンジュール」も「どちら様ですか?」も「何のご用ですか?」も何もない。

       「出ていけ!」と怒鳴るばかりの男に、
       FanFanがプリントしたプリュムの写真をガラス越しに見せる。

       「猫を探しているんです。この猫を見たことはありませんか?」

       「見たことはない。さっさと出て行け!」

       お話しにならない。

       仕方がなく退散した私たちながら、興奮冷めやらず。
       その足でパン屋に直行する。

       マダムにたった今起きたばかりの“頭のおかしい男”との顛末を話すと、

       「そうそう、私も自分の猫がいなくなった時に、
       “頭のおかしい男”に脅しの電話をかけたことがあるの。
       そうしたら、すぐに猫が戻って来たわ」

       私たちが“頭のおかしい男”の家に乗り込んだことは、
       果たして脅しになったのだろうか???

       
       数日経っても、やはりプリュムは戻っては来ず、
       私たちの手ではどうにもならないため、動物愛護団体に協力をお願いすることに。
       今までの事の顛末を手紙に書いて送ると、
       すぐさま視察官から連絡が入る。

       今まさに“頭のおかしい男”の家に行ってきたと言う視察官は、
       私たちとまったく同じ扱いを受けたらしい。
       「もう少し様子を見てみます」と言い、
       また連絡すると約束して引き上げて行った。

       「家に来た人にいきなり怒鳴るなんて、やましいことがあるからだよね」
       と言うFanFan。

       「でもさ、“頭がおかしい男”ならそういう態度も普通なんじゃない」

       そもそも、その“頭のおかしい男”が、
       プリュムを家に閉じ込めているという証拠は何もない。
       あの叔母さんが言う、“猫に破られたらしいカーテン”は見なかったし、
       隣の猫にエサをあげるのは、猫好きだったらやりそうなこと。

       さらに、パン屋のマダムも脅しの電話を掛けただけで、
       実際のところ“頭のおかしい男”の家から猫が帰って来たのかどうかは分からない。

       そして、動物愛護団体の視察官からは、あれから何の連絡もない。


       なんやかんやあったけれど、
       結局のところ、すべては振り出しに戻ったようです。

  
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# by yokosakamaki | 2015-06-14 02:46 | うちの猫物語